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四重唱
第十五章
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第十五章

「どうも薔薇の騎士はウィーンのイメージが強いけれども」
「それも考慮する必要があるか」
 バジーニはそれについて考えだした。
「だがそれは今度だ」
「今回はあくまでウィーンに徹して」
「ウィーンとしては最高の薔薇の騎士になるぞ」
 その自信はあった。演出家としては。
「今回は」
「僕も最高の指揮を見せるよ」
 大沢もその自負はあった。それだけのものが今の彼にはあるのだった。
「カラヤンやクライバーを超えてみせる」
「その意気だ。それじゃあ」
「よし、頑張ろう」
 二人の心が一つになった。同時に出されたグラスが打ち合う。こうしていよいよ薔薇の騎士の幕が開けるのであった。
 初演の日。国立歌劇場には各界の著名人や名士だけでなく多くのマスコミや批評家も集まっていた。彼等にとってもある意味今回の薔薇の騎士は注目するべきだったのだ。
「あの四人が一度に出るか」
「これは見物だぞ」
 マスコミ達の目当てはそれであった。ハンナとヒルデガント、アンドレアス、マゾーラについてであった。この四角関係が舞台でどう生きるのか、非常に意地の悪い見方をしようとしていたのである。
 これに対して批評家達は別のものを期待していた。それは作品の質であった。
「カラヤンもクライバーも超えるか」
「果たしてそんなことができるものか」
 ウィーンの音楽家やそれに関わる者達は保守的な者達が多いと言われている。そのせいか彼等は事前の大沢の言葉を過剰に意識してここにいるのであった。
 彼等は他にも演出や歌手達にも目を向けるつもりであった。全てを見て徹底的に書いてやる、そう意気込む者達もいた。だからこそこの舞台のチケットがかなり高くてもそれを問題とはしなかったのだ。もっともこれも舞台が悪ければ批判の対象とするつもりだったが。
 彼等は幕が開くのを待っていた。既にオーケストラは準備していて幕の向こうではハンナとヒルデガントがいた。今二人は真剣な顔で見詰め合っていた。
「いよいよね」
「はい」
 ヒルデガントはハンナの今の言葉に頷いた。既に服は元帥夫人、オクタヴィアンのものであり二人もそれになろうとしていた。
「はじまるわ」
「私達の舞台が」
「これで全てが」
「はじまり。そして」
「終わるのね」
 既に元帥夫人になっているのか、ハンナのままなのかわからない。しかし既にその顔は元帥夫人のものになっていた。否、これもハンナのものであろうか。既にそれすらもわからなくなっていた。ハンナは今その中にいたのだった。
 ヒルデガントも。彼女もまたオクタヴィアンなのかヒルデガントなのかわからなくなっていた。しかしこれだけは言えた。ハンナも。彼女達はあくまで『彼女達』であった。そうして二人でそこにいたのだった。
「全てが」
「終わりは。全
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