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花唄
第二章
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第二章

「ゆっくりとしていきなよ」
「ええ」
 こうして二人は去った。美佐子は一人だけになった。そしてまた飲み続けるのであった。
 ビールから日本酒になる。もうかなり飲んでいるがそれでも飲めた。コップに酒を注ぐとそこに酒とはまた別のものも入ってきた。
 それは花びらであった。一枚の花びらが酒の上に舞い降りてきたのだ。
「あら」
 美佐子はそれを見て思わず声をあげた。白く浮き通った花びらの上にそれが静かに漂っていた。それを見ていると春をさらに実感するのであった。
 花びらを見ていると優しい気持ちになるのを感じる。つい笑ってしまった。
 その微笑のままコップを口に近付ける。それを酒と一緒に飲んだ。春と同じ味がした。
「ふう」
 それを飲み終えると心がさらに気持ちよくなった。目を閉じそのままうとうととしだした。
 どれだけ眠っただろうかと言ってもほんの少しだった。誰かが肩に手をかけてきていた。
「美佐子ちゃん」
 若い男の声だった。今その声が語り掛けてきていた。
「美佐子ちゃん。起きて」
「誰?」
「僕だよ」
 彼はこう言ってきた。
「遅れて御免。かなり待ったみたいだね」
「一成君?」
「そうだよ」
 ここでようやくその目をうっすらと開けた。するとそこには若い爽やかな感じの男がにこやかに笑っていた。その笑みで美佐子を見てきていた。
「遅れて御免ね」
「遅かったじゃない」
 苦笑いを彼に向けて言った。
「何していたのよ」
「寝過ごしてね。それで」
「何やってるのよ」
 咎めはしたがそうなったのもわかった。春はつい眠くなってしまうものだ。彼女も今寝てしまった。だからそれをきつく言うことはどうしてもできはしなかったのだ。
「まあいいわ」
「許してくれるの」
「ええ。だってお花見はこれからだからね」
 そう言って起き上がる。そして上を見上げた。
 空には花吹雪が舞っている。それを見ていると何か優しい気持ちになるのだ。
「ねえ」
 そのうえで一成を見た。彼はまだ申し訳なさそうにしている。
「飲めるわよね」
「勿論」
 彼も笑顔で返してきた。その為の花見であるからこれは当然だった。
「その為に来たんだし。車も置いて」
「そうなの」
「そうだよ。じゃあ飲もうよ」
「お酒もおつまみもたっぷりあるわ」
「それにお弁当もだよね」
「えっ」
 何故それを知っているのか問おうとした。しかし一成の方が早かった。彼女の後ろを指差して言うのだ。
「そこの重箱だよね」
「ええ、そうだけれど」
 見れば出したままであった。それを見ているとすぐにわかった。
「一緒に食べていいかな」
「そのつもりで持ってきたんだけれど」
 美佐子はそう述べた。
「じゃあいいよね」
「ええ、一緒にね」

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