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一人より二人
第一章
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れも姉に苦労させまいとする彼の心配りだったのである。
「それでね。行くつもりなんだ」
「そう、それを使うのね」
「うん、寮に入るよ」
 こうも言うのだった。二人しかいない家の中で向かい合ってテーブルに座りながら。既に夜はかなりの時間になっていた。その中での話であった。
「それだとお姉ちゃんももっと楽になるしね」
「それは」
「いいんだよ」
 にこりと笑って姉に告げる。その笑顔は幼い時のままだった。
「お姉ちゃんが楽できるからね。その方が」
「いいの?」
「僕がいいっていうからいいんだよ」
 彼のこの時の言葉もしっかりしたものだった。姉を安心させようという。そうした言葉だった。
「気にしないで。心配しなくていいから」
「そうなの」
「そうだよ。だから」
 さらに言うのだった。
「僕も勉強頑張るからね」
「ええ、私もね」
 自分を気遣ってくれる弟の為だった。くじけまいと思った。芯にあるその強い心で。
「頑張るわ。翔太の為にね」
「うん、頑張ろう」
「ええ」
 笑顔で頷き合うのだった。二人きりの辛い生活だったが絆はしっかりとしたものだった。二人はそれを確かめ合い生きていた。そんな中で華の側に一人の若者が出て来た。同じ職場にいる青年琢磨光平という男だ。背が高く眉が吊り上がった独特の顔をしている。身体は引き締まりその顔と合わせて非常に精悍な印象を持っている。そんな若者だ。
 彼は明るく気さくだった。仕事のうえで一緒になると何かと華を助けてくれた。このことで色々と救われた彼女は次第に彼に想いを寄せるようになった。何時しかそれは彼女が今まで感じたことがない程にまで強いものになっていた。
 しかし。ここで問題があった。翔太のことだ。彼女は弟のことを想いこれ以上想いを強くすることを躊躇っていた。しかしこのことを翔太にも光平にも言えず戸惑っていた。だがそんなある日のことだった。
「ねえお姉ちゃん」
 休日の昼のことだった。華が作ったスパゲティを食べていると翔太が声をかけてきた。やはりここでも家の中のテーブルで向かい合って座っていた。昼なので薄暗さが残る灯りは点けてはいなかったが。
「何?」
「最近迷ってるでしょ」
 こう姉に声をかけてきたのだ。
「迷ってるって?」
「誰か好きな人ができたんだよね」
 ぶしつけにといった感じでこう尋ねてきたのだった。
「そうでしょ?当たってるでしょ」
「えっ・・・・・・」
 そう言われて絶句した。これはその通りだったからだ。こうした時に咄嗟に誤魔化しの言葉を言えるような器用さは。華にはなかった。

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