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ソードアート・オンライン 穹色の風
アインクラッド 後編
春告ぐ蝶と嵐の行方
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れることもないだろう。ふう、と吐き出した息を追い抜き、さらに走る。
 と、近くにMobの反応が一つ。浮かび上がったカーソルの色は白に限りなく近いペールピンク。ちなみにこの色はプレイヤーと敵モンスターの相対的な強さを表しており、簡単に言えば白っぽいほど弱く、赤黒いほど強い。
 つまり今見つけたMobは――現在の層を考えれば当然だが――俺にとってはただの雑魚。屠ったところで貰える経験値も極僅かのため、積極的に狩りに行く意味はない。加えて言えば、長いこと愛用しているこの《ブラストウイングコート》には、入手してから半年以上経った今でもトップクラスの隠蔽効果が付与されており、俺の《隠蔽》スキルと合わせればこの層のMob如きに看破されることはまずあり得ない。よしんば看破されたとして、トップスピードで走る俺に追いつくことはまず不可能。まして、こちらは瞬風(ときかぜ)で安全圏まで瞬間転移してしまうことだってできる。結論として、ここでこのMobを倒すことによる俺への直接的なメリットは全く存在しない。

 だが俺は一本道を左へ外れ、視界に表示されたカーソル向かって駆けつつ蒼風の鯉口を切った。数秒もしないうちに、二枚貝に似た形の葉を幾つも付けた食虫植物型のようなモンスターの姿を林の中に捉える。
 俺は柄を握り締めると、鍛え上げた敏捷値をフルに使って一気に距離を詰めた。みるみるうちに敵の姿が膨れ上がり、ついには手を伸ばせば届きそうなほどの彼我距離にまで近付くが、《隠蔽》スキルのおかげで敵がこちらに気付く様子はない。もっとも、今更気付いたところで、どうにもなりはしないのだが。
 蒼風を握り締めると同時に、風刀スキル《春嵐》を発動。蒼いエフェクトを纏った刀身を、弱点である枝分かれした茎の根元へ抜刀しざまに叩きつけ、振り返ることもせずそのまま走り去る。一瞬の間をおいて、背後からあのMobが消失したことを示す破砕音が耳に届いた。

 息を吐き、蒼風を鞘に収め、首を巡らせる。視界には、新たなペールピンクのカーソルが幾つか浮かんでいた。
 俺はカーソルの主どもを殲滅しつつ丘を下る最短ルートを頭の中で構築すると、大きく足を前へと蹴り出す。あの二人は大切な囮。簡単に窮地に陥って転移され、本命を逃すわけにはいかないのだ。
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