第一章
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ても言えない。それが辛くもあった。
「そろそろか」
「そろそろね」
俺達は顔を見合わせて言葉を交し合った。
「行くのは」
「準備、いいわよね」
彼女はこう声をかけてきた。
「もう」
「ああ、勿論だよ」
俺はそれに言葉を返した。迷いのない言葉で。
「何時でもいいぜ」
「そう、何時でも」
「別れるのはな。もう何時でもな」
言葉を出す度に口の中が苦くなる。喉の奥が痛くなるようだった。もうすぐ別れの時間がやって来る。俺達の最後の時間が。ダンスで全てが終わる。それは本当にもうすぐだった。
「よし、じゃあいよいよはじまりだ!」
誰かの声が聞こえてきた。
「踊ろうぜ!いいな!」
「よし!」
「気持ちよくな!」
皆それに応える。応えていないのは俺達だけだった。
「じゃあ行くか」
「わかったわ」
彼女は俺の言葉に短く頷いた。最後の時が遂に来た。彼女の顔は青くなっていた。多分俺の顔もだ。ラストダンスだ、今俺達はそれに向かった。
「御前等も踊るんだよな」
「勿論じゃないか」
俺は友達の一人に笑ってこう返した。
「だからここにいるんだろ?」
「そうだよな」
「そうだよ」
答えはするがその理由は言わなかった。とても言えなかった。
「だからな」
俺の言葉は少し辛いものが入っていたかも知れない。気付かれたかも知れないと怯えた。
「踊るぜ。気持ちよくな」
「ああ、今日も見せてくれよ」
その友達は俺の言葉に笑顔になってきてまた言ってきた。何も知らなくて本当に楽しそうだった。少なくとも今の俺とは全然違う気持ちなのがわかる。
「頼むぜ」
「わかったよ。じゃあ」
「ええ」
俺が声をかけて彼女がそれに応えた。こうして踊りがはじまった。ごく普通のチークダンスだ。けれどこれは俺達にとっては最後のチークダンスになる。それを噛み締めながら踊りはじめた。
踊りの間俺達はずっとお互いの顔を見ていた。これで最後だ、そのことをくどいまでに噛み締めながら。時間は無限なようであっという間のようで。踊っている間にまた今までのことが思い出される。思い出したくないのに記憶は思い出される。不思議な気持ちがまたする。けれどそれも終わってしまう。時間は常に動くものだからだ。踊っているうちに遂に時間が終わってしまった。
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