暁 〜小説投稿サイト〜
或る短かな後日談
終わった世界で
二 置き去り
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 油塗れの町。玉虫色、虹色と言えばまだ、聞こえの良い。水溜り、アスファルト、瓦礫の表面。何処から運ばれてきたのかなんて知る由もない、見渡す限りの油、油、油の世界。
 注意して歩かないと。滑って転んでしまいそう、と。彼女の右手を握り締め――彼女は決して。私をその鋭い爪で傷付けまいと力を込めず。その代わり、私がしっかり二人を繋いだ。

 私達が目指すのは、日の昇る方角。雨雲が他の雲を浚っていってしまったらしい今は、赤い空の向こう、更に赤く輝く方へ。ポーチの中に入れられたコンパス……ネクロマンサーに与えられた。憎々しいことに。雲に空を覆われたときには、それに頼らざるを得ず。ネクロマンサーに作られた身体、与えられた技能に頼り切っていることも含めて。そして。
 東へ向かえと。其処で待っていると。そこで奴が馬鹿正直に待ち構えているかどうかも分からないというのに。ネクロマンサーの残した、そんな言葉に従っていることも、また。全て、全てが忌々しい。
 しかし。他に手がかりなんて無く。他に怨みをぶつける場所を知らない私は、私達は。

 東へ。日の差す方へと、進み、進み。幸いと言うべきか。私達の進む先には、何か。建築物らしい、何かが見え。

 昨夜はあのまま。必要も無い睡眠を取り。どちらが先かも思い出せず、二人揃って眠りについて。無用心極まりない夜を過ごしてしまった。こうして、何事も無くまた旅立てたから良かったもの……いや。
 もしかすると。あの時、微睡みの中で感じた安らぎ。彼女と共に在る安堵。その中で、目覚めることなく眠りにつけたのならば。その方が――なんて。

 そんなことを考えるのは。全てを終わらせてからでいい。ネクロマンサーを倒し。悪意の根を摘み取ってから。今はこうして、手を繋ぎ合い。二人で歩いているのだから。

「リティ。体は大丈夫?」
「大丈夫。もうすっかり馴染んだよ、ありがとう」

 あの後。散らばったパーツをかき集め……私たちのものか、敵のものかも分かりはしない。何とか。粘菌が壊死する前に繋ぎ合わせることが出来。若干の傷は残ったものの、私の体は問題なく動ける程度に回復し。本当、便利な身体だと。思ったところで湧き出した、自身への苛立ちもまだ、記憶に新しい。
 この。ネクロマンサーが私に与えた便利な身体で。技能で。他でもないネクロマンサーを滅するのだと。決意を新たに、街と砂漠のその境を踏む。

「リティ」
「何、マト」
「顔、怖い」

 何時から見ていたのか。昨夜は、二人で叫び、泣きつかれ、眠り。その相方も、今はもう普段の彼女。淡々とした口調で、淡々を事実を告げ。それでも若干、引き攣ったその顔が、私の心に刃を捻じ込む。

「……そう……」

 肩に掛けたライフルが。腰に下げた拳銃が。自棄に重く感じて。空いた手で顔
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