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Muv-Luv Alternative 士魂の征く道
序章
03話 黄泉還り
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……!」

 渇いた笑みが零れた。
 仏様やら神様とやらの価値観は全く分からないが、どうやら自分はその観念では既に人ですらないらしい―――いやはや、全くの同感、否定の余地は微塵たりとも存在しない。
 躊躇なく、血の川から紅を掬うとそれを喉へと流し込む。人ではないのなら血を啜る事に戸惑いを覚えるのは可笑しい。

 熱い、焼けるように熱かった。五臓六腑が焼けただれるような錯覚すら覚える。
 しかし、渇きは僅かなりとも癒えた。口元を拭い、そして立つと血の川に掛かる橋を見つめた。


「ま、地獄の沙汰とやらを素直に受けるとするか、金もない次第だしな。」


 自分の皮肉に苦笑すると骸の道へ戻る……周囲には無数の石が積み上げられた墓標があった。
 恐らく、親より先に逝った子供たちが積み上げた石なのだろう。――既にいないという事は親が追いついたか、己には見えないだけのどちらかだろう。

 そしてどうも自分も本来は積まねばならない筈だが、どうやら例外らしい。
 一歩一歩。踏み進んでゆく。屍のけもの道を歩み、そして三途の川の橋に足を踏み入れようとした―――そんな時だった。


「――――?」

 足を止める、何かが聞こえたような気がしたからだ。

「……泣き声?」

 後ろから聞こえて来た、心を磨り潰すようなそんな嗚咽交じりの誰かが涙する声が聞こえて来たのだ。
 振り返りそうになる――がそれは思いとどまる。

 自分に、誰かの心を救える訳は無いのだ。己は只一振りの剣―――兇器に過ぎぬ。
 刃では誰かを害する事が出来ても救う事なんぞ出来るわけないのだ。
 兇器では涙をぬぐう事出来る筈もない。

 瞳を閉じ、心を静かにし思う……其れはきっと、別の誰かの役目だ。


「どちらにしても―――もはや死人の俺には関係のない事だな。」

 瞳を開き、三途の川の渡し橋を見やった――――そこで眼前に広がる目を閉じる前とは違う光景に瞠目する。
 無数の屍たちが立ち塞がっていたのだ。見覚えのある貌、無い貌様々な面々だ。


「……本山、安芸、大平さん…津野―――」


 皆、先に逝った戦友たちだった――他にも守れなかった民たちが一様に自分を見つめていた。
 屍たちが己の逝く手に立ちはだかる―――その命亡き眸で彼らは訴えてくる。
 ただ死に逝くには早いと。

 それは怨嗟か、怨讐か、呪詛か。
 否、いずれも違った。骸が手を差し出した、其処に握られているのは一振りの剣。

 鞘も鍔も刀身も刃金もすべてが夜闇のような漆黒の刃。
 漆黒が他のすべてをぬりつぶす色であるがために、その刃には一点の穢れも無い。

 其れは――無垢なる刃だった。

 命亡き眸が訴えてくる。其れは声なき哭き声。
 
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