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素直は恥ずかしい
第八章

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第八章

「そういうことだったんですか」
「ええ」
 若菜はこくりと頷いた。
「絶対適えたかったから。だから」
 そのうえで言う。
「内緒にしてたの。だって本当のこと言ったら佐々木君来てくれないかもって思ったから」
「会長・・・・・・」
「もう、会長って呼ばないで」
 若菜は健次郎に言った。
「あの、よかったらその」
「ええと、それじゃあ」
 健次郎はそれを受けて暫し考える。それから言った。
「斉藤さんでいいですか?」
 言うまでもなく若菜の姓である。
「それだったらいいですよね」
「うん、それでお願い」
 若菜はその呼び方を受け入れた。
「それで私は佐々木君のことは」
「僕は今まで通りでいいです」
 健次郎はにこりと笑ってそう述べた。
「佐々木で」
「そう。じゃあ佐々木君」
「斉藤さん」
「これからも宜しくお願いね」
「はい・・・・・・」
 若菜はそのまま健次郎の側まで来て彼にもたれかかる。健次郎はそんな若菜を抱き締める。背は変わらないのに若菜の方が小さく、健次郎の方が大きく思えた。そのままひしと抱き締められる若菜であった。
「これで一件落着ってわけだな」
 そんな二人を部屋の扉から見る男がいた。片桐だった。
「全く、素直に言えばいいのによ。あれこれ理由つけて」
 若菜のことである。
「それは嫌か。全くな」
 やれやれといった様子だったが決して悪い顔はしてはいなかった。
「まあいいか」
 そしてこう言った。
「上手いこと収まったからな。万々歳ってやつだ」
 そのまま扉をそっと閉めてその場を後にした。抱き締められる若菜をそのままにして。


素直は恥ずかしい   完


                  2006・8・31

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