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クルスニク・オーケストラ
第一楽章 嵐の後の静けさ
1-2小節
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 徐々にジゼルの声から威勢のよさが消えていく。

「《彼女はクルスニクの宿業にはちっとも関係ない人なのに》……」
「ジゼル、()()()()()
「っ! 申し訳ありません、わたくしってば」

 ――基本的に、人ひとりの体には一つの意識しかない。だが、ジゼルは違う。事情は省くが、ジゼルの中には20以上の《別人》がいる。
 多重人格とか可愛いものじゃない。本当の意味で全部がジゼル・トワイ・リートに根ざさない別人。

「ええと、何の話でしたかしら」
「俺たちは今後、分史対策室側だから、ユリウスはどうするかってトコ」
「そう、でした。すみません。ええと、室長はですね、ええっと、そのう……」
「テロの首謀者に仕立てあげる予定。これからは逃亡生活だとよ」

 おいこら。サラッと人の人生を180度変える発言をするな。そもそも俺はテロとは無関係――であっても証拠をでっち上げるのがビズリーって男だったなあチクショウ。

「社長のご意向ですの。弟さんの器を見極めるためには、室長には警察に捕まらずに逃げ回ってもらわなければならない、と。追跡や移動制限は、GHSの開発者の室長には通用しないと、社長もご存じですから。適任ですわ」

 ほら見ろ、やっぱりビズリーだった。

 ああ、くそ。ルドガーには知られるわ、テロリストの濡れ衣を着せられるわ。今日は厄日だ。

「わたくしは室長の逃亡の幇助を命じられています」
「いいのか、俺にしゃべって。その分だと密命だろう」
「室長にお教えするのは、()()()()()()の室長を慕う方々の総意です。わたくしは一人、《彼ら》は5人。多数決では敵いません」
「どの口が言うんだか」
「ええ。言ったのはまぎれもなく、わたくしの口ですわ。ですから帰社したら正直に社長と秘書官に報告するつもりです」

 リドウの皮肉もどこ吹く風。
 自分に不利な内容を迷わず告げる潔さ。半分分けてほしいと何度思ったことか。

「んじゃ、そろそろ行ったら? 元室長。早めに出ないと、ドヴォールの朝は早いぜ」
「言われなくとも行ってやるさ。これ以上お前と同じ空気は吸いたくないからな、『副』室長」

 明日でない今ならお前はまだ副、つまり俺の部下だ。どう呼ぼうと自由だろう? してやったり。

 席を立ってジゼルを見下ろす。

「――ジゼル。堂々と弟のそばにいられるなら、弟を頼む。クルスニクの秘密に触れすぎないようにしてくれ」

 それはつまり、時歪の因子(タイムファクター)があればルドガーではなくジゼルに破壊してくれと頼んでいるも同然で。

 ジゼルはエージェントの中でも特異だ。時歪の因子(タイムファクター)破壊は、普通の骸殻能
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