第四章
[8]前話
「その通りであります」
「そうじゃな。南蛮ではおのこを愛さぬのか」
「恐ろしい罪と教えているのですな」
「何処が罪なのじゃ」
家光は首を傾げさせてこうも言った。
「おのこを愛することの」
「それがわかりませぬな」
「おのこを愛するのもおなごを愛するのもな」
「同じですな」
「好みの問題じゃ」
「確かにおなごを愛し子を残さねばなりませぬが」
家光は尚更だ、何しろ彼は将軍だからだ。
しかしそれでもだ、家光もこの幕臣もわからなかった。それで幕臣も訳がわからないという顔で家光に話すのだった。
「しかしおのこを愛しても」
「悪いことはない」
「全く以て伴天連はわからぬことを言いますな」
「切支丹はのう」
「考えが狭いのでしょうか」
「だから民を奴婢にしたりするのじゃな」
これ故に幕府も切支丹を禁じている、民をそうしたものにされて他の国に売り飛ばされてはたまらないからだ。
「全く、どういった者達じゃ」
「わからぬ考えですな」
「おのこを愛することに悪いことはない」
全く、と言う家光だった。
「余もな」
「では今宵も」
「さて、今宵はどの小姓を褥に入れるか」
実に楽しそうにだ、家光は言った。
「考えようぞ」
「そうされますか」
「うむ、伴天連の者を笑いながらな」
彼等の考えを器が小さいと思いながらだ。
「そうしようぞ」
「左様ですか、しかし」
「おなごもじゃな」
「そちらの方はどうされますか」
「そちらも近頃な」
子を残さなくてはならないからだ、将軍としてこちらも忘れてはいない。家光は幕臣のその問いにも答えた。
「よくなってきたからのう」
「さすれば」
「明日はな」
今日は違うが、というのだ。
「おなごと寝るわ」
「そうされますか」
「さもなければ怒られるわ」
笑ってこうも言う家光だった。
「松平伊豆守や局にな」
「春日局様にもですな」
「余も忙しい、夜もな」
「ははは、上様になられていますから」
「全くじゃ、しかし確かにおなごもよい」
そちらもと、いうのだ。
「そしておのこもな」
「どちらも楽しんでこそですな」
「本朝では普通ぞ、全く伴天連というのは」
「器が小さいですな」
「全くじゃ」
家光は笑って話す、彼にとっても多くの者にもそれは普通のことであった。ザビエルがおぞましい悪徳とまで言ったものは。男色が罪になるのかは人それぞれの考えであろうが面白い話であるのでここに書き残しておく。
普通のこと 完
2014・5・24
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