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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第20話 胃痛
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てからというものイジェクオン近辺で海賊が出たって話は聞かなくなったし」
「前の司令官はそれほどひどかったんですか?」
「なにしろ星間輸送会社から賄賂を貰っていたって事で、ハイネセンから憲兵が飛んできて連れて行かれちゃったくらいだからねぇ……老後が心配だったんだろうけど」

 つまり前任者の不始末を放置していたような星域司令部に対し、中央から派遣されてきたエリートのリンチは、最初から不信感を持っていたのだろう。前任者が捕縛されて意気消沈していた星域管区の人間も、そんなリンチの態度を苦々しく思っていたに違いない。実績が上げられない無能ならまだ彼らも救われただろうが、リンチは運が悪いことに優秀だった……

「リンチさんはケリムに来てもう二年。先月の人事異動でも動かなかったから、来年には昇進して別の処にいるのかもしれないねぇ……」
 坊やも身体に気をつけて頑張るんだよ、と結局最後は激励になってしまったが、おばちゃんの好意をありがたく受けて、俺は宿舎の自分の部屋に戻った。

 ワンルームに備え付けの端末机。ユニットバス、折りたたみ式のベッドを一応備え、制服と私服一着以外何もない部屋で、俺はインスタントラーメンを啜りながら、ぼんやりと端末画面に映るリンチ准将の公開されている履歴を見つめながら考えた。

 リンチは現在三八歳。グレゴリー叔父の一つ年上になる。士官学校戦略研究科を卒業。席次は一八八番/三七六六名中。戦略研究科では七五番/三六九名中。戦略研究科の卒業生よろしく、統合作戦本部や宇宙艦隊司令部でデスクワーク、前線では参謀とそれなりに戦績を重ねている。二九歳で中佐となり、駆逐艦小戦隊の指揮を執ってから、部隊指揮を主にし、幾つかのナンバーフリートを渡り歩きつつ昇進し、ケリム星域へとたどり着いた。まず軍人としては順調というかスムーズに出世しているといっていいだろう。

 だが部隊指揮官として最高位である宇宙艦隊司令長官にたどり着けるような人材かというと無理がある。グレゴリー叔父なら、ケリム星域に配属された場合、既設部隊の指揮官達と衝突などせず交流を深め、実働部隊の相互連携を構築してしまうだろう。グレゴリー叔父はそれが出来るから第一艦隊副司令官で少将、リンチは地方の警備艦隊司令官で准将。二年もこういう環境にあれば、とっとと功績を挙げてナンバーフリートに復帰したいと思っているに違いない。それが彼を必要以上に焦らせている。

 エル・ファシルの悲劇は、彼のそういった焦りと驕りが重なった結果だろう。少将に昇進して星区防衛司令官になっても、エル・ファシルという辺境では出世の本流から取り残される。そこに海賊とは戦意も装備も桁違いの帝国艦隊が侵攻してくる。近年の実戦経験が海賊討伐で、戦闘指揮もそちらに慣れっこになっていたから……帝国艦隊の再反転追撃など、
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