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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百六十四話  憂鬱
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ったのだけどね。義父上は頑固だから……」
夫が軽く息を吐いた。養父は夫と私を出来るだけ二人だけにさせようとしている。夫が多忙で休みが取れない事を大分気にしているようだ。

夫にはココアとクッキーを私には紅茶とクッキーを用意した。ココアの甘い香りが部屋に漂う。久しぶりの休日、夫がこうして家で寛ぐのは本当に珍しい事だ。いつもは休日とは言っても人と会ったり自室で仕事をしている事の方が多い。あまり無理はして欲しくないのだけれど……。

「貴方は養父と一緒にいるのは苦になりませんの」
「……何故そんな事を?」
「養父の前では誰もが緊張していますから。貴方は如何なのかと思ったのですけど」
夫はココアを一口飲んでから“余り苦にならないな”と答えた。

嘘ではないだろう、夫はごく普通に、私よりも自然体で養父に接している。本当に血の繋がった親子のようだ。
「義父上は如何なのかな。私と一緒に暮らすというのは苦にならないのかな」
「そんな事は無いと思います。喜んでいらっしゃいますよ。……何故そんな事を?」
私が問い掛けると夫が曖昧な笑みを浮かべた。

「義父上にとって私は使い辛い部下だったのではないかと思ってね」
「まあ」
「考えてみればかなりの問題児だったと思う。良く我慢して使ってくれたものだ。義父上と同じ立場になって分かったよ。人を使うのは難しい、つくづくそう思う」
しみじみとした口調だった。

苦労しているのかもしれない。夫は未だ二十台半ば、世間一般では青二才と言われてもおかしくない年齢なのだ。それなのに夫は帝国でも屈指の実力者になっている。周りにいる部下は皆夫よりも年上だろう。気の休まる時は無いのかもしれない。沈んだ表情でココアを飲んでいる夫を見ると胸が痛んだ。

「御無理はなさらないでくださいね」
「ああ、大丈夫、無理はしないよ」
夫が柔らかい笑みを浮かべた。嘘だと分かっている。夫の立場では無理せざるを得ない事の方が多い。軍だけではなく内政にまで関わっているのだから。私は無理をしないで欲しいと出来ない事を願い夫は出来ないと分かっていても無理はしないと答える……。

意味の無い会話なのかもしれない。それでも私に出来るのは心配している人間が身近にいるのだから無理をしないでくれと訴える事でしかない。なんて無力なのか……。夫が困ったような笑みを浮かべているのも私に対する罪悪感からだろう。周囲から冷徹と言われても心の冷たい人ではない。無理をしないで欲しいと思うのは健康面だけの事ではない……。

「済まないな、ユスティーナ。君には心配ばかりかけてしまう」
私が抗弁しようとすると夫が首を横に振った。
「身体が弱いのに忙しくて碌に休みが取れない。おかげで夫婦らしい事は何一つしてやれない。本当なら今日も一緒に出かけたり買い物にで
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