暁 〜小説投稿サイト〜
ロード・オブ・白御前
オーバーロード編
第10話 探しに行く
[1/3]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
 
 「待合室T」のプレートがかかった部屋の中。光実は碧沙と楽しく、ただのおしゃべりに興じていた。
 ――碧沙が体調を損ねた日から、光実は頻繁に碧沙の部屋に足を運び、他愛もない話をするようになった。今まで感じていた溝を埋めるように。


 ドアが開いた。入ってきたのは裕也だった。
 腹には量産型ドライバーを着けたまま、その手にはゲネシスドライバー。

 それだけでもおかしいのに、裕也は今までにない暗い表情をしていた。

「あ、の、裕也さ」
「貴虎さんが死んだ」

 何を言われたか分からず、分かってからは疑う気持ちのほうが先んじた。

「裕也さん。悪い冗談はやめてくださいよ。兄さんがそう簡単にやられるわけないじゃないですか」
「インベスじゃない。オーバーロードを探してる途中で、崖から落ちたんだ。助かる高さじゃなかった。こいつは」

 裕也は光実の手を取ると、無理やりゲネシスドライバーを握らせた。

「貴虎さんが落ちた現場に落ちてたもんだ。お前らが持ってるのが一番いいと思って、持って帰った」

 光実の手を掴む裕也の手は、震えていた。あの、裕也が。どんな時でも飄々として余裕を崩さない裕也が。

「うそ」

 碧沙が呟いた。

「嘘ですよね、角居さん。貴虎兄さんが死んだなんて、そんなの、嘘ですよね。ねえ? 裕也さん。だって貴虎兄さん、あんなに強くて、どんな時でも勝ってきて、」
「碧沙」

 光実は、引き攣った笑顔でなおも裕也に迫ろうとした碧沙を、制した。これ以上を裕也に言わせるのは酷だ。

「本当に、本当なんですね。兄さんが、死んだ、って」
()()()()()()()()()()()()
「分かりました。すいません。辛いことを言わせて」

 裕也は首を振ってから、無言で部屋を出て行った。


「貴虎兄さんが、そんな……兄さん?」

 光実は腕組みして頭をフル回転させていた。
 多くのことが引っかかる。その引っかかりをほどけば、真実は必ず見えてくる。光実の経験則だ。

「――やっぱりおかしい」
「なに、が?」
「裕也さん、言ったろ? 『俺が言えるのはそれだけ』って」

 碧沙も気づいたように口元を押さえた。

「言動を制限されてる――?」
「うん。裕也さんがあんなことを言うからには、本当のことか、あるいは」

 ちらりと見上げたのは、天井の、剥がされた監視カメラの跡。

 血清完成後、碧沙の部屋からは監視が劇的に減らされた。しかし、インベスに変貌する危険がある裕也は、碧沙の血清の投与を受けてからも監視が続けられている。

「兄さんは本当は生きてるけど、死んだことにしておきたい
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ