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百万の兵
第二章

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「桂松だからこそじゃ」
「我等を餓えさせず戦わせてくれる」
「そうなのですな」
「そうじゃ」
 その通りだと言うのだった。
「あ奴がいてこそじゃ」
「若し桂松殿でなければ」
「戦えませぬか」
 加藤の家臣達も応える、そしてだった。
 異国で戦う彼等も大谷を認めた、だがそれでも。
 大谷の病は重かった、それで。
 目も見えなくなろうとしていた、顔はいつも頭巾で覆っていた。業病の辛さはもう隠し様がなかった。だがだった。
 その彼にだ、秀吉は言うのだった。
「よくやってくれている」
「当然のことです」
「そう言うか、しかしな」
「しかしとは」
「御主にじゃ」
 秀吉はこの上なく優しい顔になってだ、大谷に言った。
「百万の兵を預けたいのう」
「それがしに百万の」
「そうじゃ、そして思う存分戦わせたい」
「それは幾ら何でも」
「御主なら出来る」
 やはり優しい顔で言う秀吉だった。
「必ずな」
「しかしそれがしは」
 業病を得ている、それが進んだ為実は今は職を辞して隠棲している。そこで秀吉に呼び出され参上しているのだ。
「この病ですから」
「その病か」
「はい、ですから」
「確かにその病は重い」
 隠せないまでにだ、今も頭巾を被り顔を隠している程だ。
 だがその大谷にだ、秀吉は言うのだ。
「それでも御主はそこまでの者じゃ」
「そう言って下さいますか」
「そうじゃ、だから今はじゃ」
 大谷にこうも声をかけた。
「その病を癒すのじゃ。薬は何でも届けてやろう」
「薬もですか」
「それで病を癒せ。よいな」
「そして病が癒えれば」
「その時こそじゃ」
 秀吉の顔は優しいままだ、その顔での言葉だった。
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