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ToV - 黎明の羽根
第一部
愛故の憎しみ
蓮の花の青年

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依頼完了。
達成感と爽快感が入り混じった心境を胸に、本日も拠点に戻る。


夕暮れの街【ダングレスト】。
夕焼けが支配する空間の中を、それぞれの武器を握って行き交う者達。
影を落としながらも活気に満ちたこの街を、自分はそれなりに気に入っている。

何だか故郷に帰ってきたようだ、と錯覚してしまうのだ。


その普段なら足を踏み入れれば安心できる街の空気が、今日は少し違う。
些細な異変に青年――ユーリ・ローウェルは眉を顰めた。


「ユーリィ――――!」


異変の正体はすぐに判った。
辛うじて姿を発見出来たのか、広場の人だかりの中から聞き慣れた声が飛ぶ。

声から察すると恐らく囲まれてるのは我らが首領だろう。
以前の旅の途中、ギルドを興すに当たって自分を誘った張本人でもある。
その背丈のせいで姿は見えないが。


「悪い。ちょっと通してくれねえか」


人混みを掻き分け、広場の輪の中へと進む。
すると予想通り――と言うのも生憎だが、見知った顔がその中央地点で何やら喚き散らしていた。


「だから、誤解だよ!」


小さな身体を張って、精一杯の怒号を放つ少年。
新生ユニオン所属のギルド【凛々の明星】の首領、カロル・カペルである。

街の人々から糾弾されてるのかと思えば、どうやら状況は違うらしい。
対相手が居るようだ。


今や【凛々の明星】と言ったら五大ギルドに次ぐ大御所。
結成してからの期間は短いものの数々の依頼をこなし、実績を積んで名実共にそれなりの評価を得ている。
其処の首領が騒ぎを起こしてるとなれば、気になって当然だろう。周囲に円を描くこの人だかりは単なる野次馬のようだ。


腰に手を添え、ユーリは盛大な溜め息を吐き出す。
注目を浴びるのを承知で輪の中央に踊り出ると、カロルの背中をポンと軽く叩いた。


「呼んだか?カロル」
「あ、ユーリ!遅いよ!」


憤怒に満ちた表情そのまま、カロルが振り返る。

突然の登場に驚いたのだろう。
少年の目の前に立ち、口論の相手らしき男も同時にこちらへ目を向けてきた。

ユーリが登場したことで一時休戦状態になったかと思いきや、カロルがまだ怒りが収まらないといった様子で息を巻く。
いつもなら止めに入るところだが、こいつがこんなに怒り狂うなんて珍しいな――と何故だか感心してしまった。

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