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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第五十二話 貴人たちは溜息をついた
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皇紀五百六十八年 七月十九日 午前第十刻 駒城家下屋敷
駒州公爵 駒城篤胤


 駒州公は半ば隠遁してもり、実務から遠ざかっている。そうした考えは北領の大敗、そして新城直衛の奏上により払拭されていた。政争に身を浸した者なら誰もが裏で駒城篤胤が関わっている事は常識として理解していた。だが、本人はそれにすらも何ら反応を示さず、表向きは何ら変わる事なく隠遁者の日常を送っていた。
 そしてその裏も内面も何も変わっていない。遺漏なく徹底した情報収集を行い。その分析と最悪の事態の想定を怠っていなかった。
「龍州は陥落、そしてどれほど戦力を保持して虎城に落ち延びられるかが肝、か。
〈帝国〉軍を引っ掻き回して手に入れた時間をどれ程――いや、これは儂が考えても意味があるまい」
 流石に前線にまで口を出す余裕はない。それは保胤がなすべきことであり、息子に対する助力ならともかく、頼まれてもいないのに口を挟むのは愚か者のする事だ。
 むしろ着目すべきは皇都におけるパワーバランスである。
「――そうなるとやはり馬堂か。いやはや聡いのが三代も続くといささか面倒だな。
おまけに功が集まり過ぎだ、ある種直衛より性質が悪い」
 馬堂家の三名は、それぞれ類は違えども三者三様に一角の人物と言っても差支えが無い。
豊長はまさしく駒城の重臣とでもいうべき男である。自由を尊びながらも忠義に厚く、必要ならば公明正大にふるまえるし、ある程度の駆け引きもできる。
豊守は駒城の色は比較的薄い。太平の世に後方勤務の畑を耕し続けた所為だろう。五将家と距離をとっていた弓月と関係を深めてからはそうした傾向が強まっているような感覚もある。
そして前線では巨大な功績を持った“英雄”の聯隊長が居る。ある意味では彼が最も読めない。単純にかかわりが薄いという事もあるが、それ以上に彼の価値観がわからないのだ。時には貴族主義的な面を見せるかと思えば民本主義に傾倒しているような言動も見せる。
――そもそもからして人当たりは良いが直衛の幼馴染とでもいうべき立場に居るのだ、難物であって当然か。
篤胤は一人で納得し、笑みを浮かべた、
「豊久は――保胤に任せるべきだろうな。それにどの道、手綱を繰るのは豊長と豊守だ。
結局のところはあの二人が舵取りを誤らぬようにすればよい」
とりわけ敵ではなく、同時に向こうが敵対するつもりもない事が分かっていても篤胤が馬堂家を現状の駒城内における内憂と考えていた事はこれに尽きる。
有体に言って“強すぎる”のだ。五将家に比肩しうるような大勢力ではないが、五将家の何れかが駒城を割ろうとするのならば、彼らは非常に巨大な欠片となりうるだろう。それこそ不満を抱えた他の重臣も共に離れるかもしれない。
 駒城と言う外郭が残っていても中身を失っては意味がない。
 ――将家とは配下
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