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愛は勝つ
第八章
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第八章

「お父さんのことだけれど」
「わかってるよ」
 彼は答える。
「わかっているからだよ。何があってもね」
「そう」
 尚志のその言葉を聞いて俯く。
「いいのね、それで」
「矢吹さんと一緒にいたいから」
 彼はじっと若菜を見ていた。見詰めたまま話をするのだった。その目の中にいるのは若菜しかいない。それこそが何よりの証拠であった。
「いいよね、矢吹さん」
「困ったわね」
 その言葉に諦めたような、それでいて達観したような笑みを溜息と共に出してきた。
「じゃあ明日ね」 
 そのうえで彼に顔を向けて言う。
「明日、私の家に来て」
「うん」
 若菜の言葉に頷く。遂にその時だったのだ。
「行くんだよな」
「もう決めたよ」
 次の日の昼、尚志は屋上で真と二人でいた。そこで若菜のことについて話をしていた。
「何があってもね」
「いいんだな?」
 真はあらためて彼に問うてきた。
「何があっても」
「何があっても行くよ」
 そう問われても尚志の決意は変わらない。真はそんな彼の横顔を見て何か今まで見たことのないものを見たとわかった。
「そこで何を受けてもね」
「前に聞いた時と同じだな」
 真はそれを聞いてふと言った。
「御前、案外強いんだな」
「強いかな」
「ああ、強い」
 彼はそう尚志本人に告げる。
「御前は喧嘩はできなくても強い。わかるか」
「ええと」
 その言葉に少し戸惑っていたがやがて首を傾げながら答えるのだった。
「心が強いってことかな。よくわからないけれど」
「そうさ。御前は本当に強い」
 また彼に言う。
「それが今わかったよ。御前の強さがな」
「自分ではそうは思わないけれど」
 自分でもはわからない。どうにも首を傾げさせたままだった。
「そうなんだ」
「そうさ。後はその強さをぶつけろ」
 この上なく真剣な顔で尚志の横顔を見て述べる。
「いいな、矢吹の親父さんが化け物でもだ」
「行けっていうんだね」
「その強さ見せてみろ」
 こうまで言い切る。
「俺が言うのはそれだけだ」
「よし」
 尚志は顔をあげた。彼もまた向かう。前へと。
 放課後。彼は若菜と一緒に彼女の家に向かう。そこはかなり大きな和風の屋敷であった。
「ここなんだ」
「ええ」
 若菜は尚志の言葉に頷く。
「道場やってるのよ」
「そうなんだ」
 二人は居間屋敷の前の正門にいた。そこから屋敷を見上げていた。
「ここが」
「入るわよね」
 そっと尚志に問うてきた。
「やっぱり」
「決めたから」
 ここでも決意が変わらない。それは変わりはしないのだった。
「君もいいんだよね」
「私なんかでいいのよね」
 顔を俯けさせてきた。
「それで。その」
「君以外の誰もいらない」
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