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籠の鳥の冒険
籠の鳥の冒険
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[1] 最後
 それは、まだウォルフガング・ミッターマイヤーが士官学校生だった頃の話だ。
 同級生であり、同じ学生寮の住人であり、ついでに言えば学年の事実上の一位二位であったホルスト・ジンツァーと共に上級生のお使いに出ていたミッターマイヤーは、少し早めに用事を済ませると近くの公園に寄り道していた。
 季節は初夏で、つつがなく昇級試験を終わらせていた二人は、少し浮かれた気持ちで公園の芝生で寝転がっていた。
 だが、急に跳ね起きたジンツァーが、何かに引っ張られるように走り出した。
 慌てて追い掛けると、友人は何かを手にとり痛ましげに眉を顰めていた。
「どうしたの?」
「可哀相に、何かの罠にでも引っ掛かったのかな」
 彼の手の中にいたのは、片足を失い、すっかり衰弱しきった小さな小鳥だった。どう見ても、貴族の家で飼われる類の鳥であった。
 誤って籠から飛び出し、野良猫か何かに襲われたか、それとも心ない子供の悪戯で足を切られてしまったのか、どちらにしろ小さな黄色い小鳥は、ジンツァーの手の中で動かなくなった。
「・・・・・・随分、もがいたみたいだ」
 農場育ちで、それこそ馬も牛も鶏も世話していたと言うジンツァーは、手の中の小鳥をそっと撫でてやってから地面に下ろした。
 友人がやろうとしている事を察したミッターマイヤーは、墓石代わりの石とひこばえの野菊を取って来て小鳥を埋めた上に乗せた。

 この、記憶の片隅に眠る出来事が、何を意味するのか、神ならぬ身に判る筈も無く。


「何でも、憲兵隊を出し抜いておられる名探偵とか」
 時代は、リップシュタット戦役後、ローエングラム公ラインハルトの名代として参加した、とあるガーデンパーティでの事。
 貴族の男の言葉に、ミッターマイヤーは困惑しオスカー・フォン・ロイエンタールはあからさまに相手を睨み付けた。
 確かに、酒の勢いでべた記事を推理したり、友人に頼まれて推理まがいの事をしたりもしたが、ミッターマイヤーは自分は職業軍人であると言う意識がある。『名探偵』などと言われて舞い上がる程、ミッターマイヤーはおめでたい性格ではなかった。
「オッペンハイム男爵、小官は」
「いやいやご謙遜めさるな」
 最も、通用する相手としない相手はいて、目の前のふくふくした男には通じない様子だった。
 困惑を謙遜と取り、ロイエンタールの氷点下の視線にも動じず、かなり辺境の小さな領地を持つと言うその初老の人物はミッターマイヤーに頼むと言った。
「友人の、一二年に亘る懊悩を、何とか解してやりたいのですよ」
 その言葉に、ミッターマイヤーの見えない狼の尻尾と耳が反応したのを感じ取って、ロイエンタールはそれこそはっきりと嘆息した。
「力になれるかどうか判りませんが、小官でよろしければお話を聞かせて下さいますか?」

   そ
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