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雲は遠くて
9章 恋する季節 (3)
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東京・芸術・大学の音楽学部の先輩・後輩も集まっていた。
1階と2階のフロアは、そんな若者たちで、(はな)やかなであった。

早瀬田(わせだ)大学の3年生になる、清原美樹も、
姉の美咲(みさき)や、親友で、同じ大学の3年の、
小川真央(おがわまお)と、3人で、バー・カウンターで、
あまいカクテルのカンパリ・オレンジとかを飲みながら、
バーテンダーを相手に世間話をしていた。

「しん(信)ちゃんも、つらいとこだよな」

クラッシュ・ビートのリードギターの岡村明(あきら)が、
ジョッキの生ビールで酔いながら、川口信也に話しかけた。

「でも、しんちゃんは、うろたえてないから、すげーよ」

クラッシュ・ビートのベースの高田翔太(しょうた)もそういった。

3人は、川口を真ん中にして、6人がけの(なが)四角のテーブルで、
料理をつまみながら、生ビールを飲んでいる。

「まあ、まあ、飲もうぜ!岡ちゃん、翔ちゃん。
おれって、なぜか、三角関係に(えん)があるんだよ。
アッハッハ」といって、川口は、ジョッキのビールを、
ぐいっと飲んだ。

「三角関係って、あのサイン(sine)、コサイン(cosine)のかぁ」
と高田翔太がふざける。

「ちゃう、ちゃう。ひとりの女性を、ふたりの男で、
(うば)()うっていう、必死(ひっし)の戦いだよ」と川口。

「しんちゃんも、修羅場(しゅらば)を経験しとるんだね。
おれは、しんちゃんみたいな、きつい恋愛はしてこなかったなあ」
と高田が川口を見て、にやりとほほえむ。

≪つづく≫ 
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