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海戦型さん
のつぶやき
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2019年 03月 08日 (金) 03時 01分
▼タイトル
流氷の微睡み2-2
▼本文

 到着時間は8時52分。エイジの計算した時間と比較すると4分短縮可能らしい、と言うのは余談だろう。

 部屋の中に入ると、仕事着である軍服を着たままの両親、笑重花と殿十郎が弾かれたように席から立ち上がって二人に駆け寄る。その表情は心なしか、テレビ電話で数日前に会話した時よりやつれて見えた。

「エイジ、エデン!怪我はない!?怖かったよね……ごめんね、こんなに遅くなって!!」
「ああ、本当によく無事で……テロリストと二人が交戦したと聞いた時は、もう世界が終るかと思ったよ……!!」

 怪我がないか確認し終えた笑重花がきつくエイジとエデンを抱擁する。その後ろから殿十郎も二人を抱きしめる。二人は震え、泣いていた。エデンはそんな二人の震えと温かさを感じ、自分も昨日からマヒしていた神経がほつれ、感情の波を抑えられなくなっていくのを感じた。

「ふ、ええ……ぅええ……!!」
「寒いの、みんな……?でも、こんなに温かいのに……」
「そうよ、温かい!この温かさを亡くさないでよかったと思うから、だから泣いてるのよ……!!」
 
 こうして、エデンは久方ぶりに泣きながら家族のぬくもりを求めて暫く抱きしめ返し続けた。
 それから数分が経過し、落ち着きを取り戻した家族は両親と子供たちに別れて、子供たちは昨日にあったことを話した。BIS伝票を渡されたこと、その日のうちに襲撃が起きたこと、逃げられないから必死に戦った事、危ないところを先生に助けられたこと。それらに両親は「無茶をして」とか「なんて間が悪い」とか、親だからこそ感じるのであろうことを言った。
 軽く説教もされたけれど、心配されているのが伝わってきてイヤではなかった。

 ただ、美音の話をなかなか切り出せずにいると、笑重花はすぐに何かを察してエデンに尋ねた。

「他にも何か、言いたい事があるんじゃないの?」
「ママ……」

 この母親に隠し事が通じた試しがない。エデンは意を決した。

「大人って、そんなにダメなのかなぁ」

 エデンは美杏と美音について判る範囲で話した。
 最後まで難しい顔で話を聞いた両親は、おもむろに口を開く。

「昨日、いつものように新兵をしごいていたらスクランブルがかかったわ。国内で破壊活動をしたテロリストを追跡せよってね。大ごとだと思って追跡しようとしたけど、目標の小ささと移動速度、ついでにジャミングのせいで対応が遅れ、あっという間に皇国海軍の管轄になって、そのまま消えたわ」
「それが聖観学園で破壊行為を行ったことも、エイジとエデンが交戦したことも、後になってから知ったことだった。自分たちが逃がしたテロリストがもしかすれば子供を傷つけ殺していたかもしれないというのに、私たちはそれが逃げていくのを見て、基地に被害がなくてよかったとか報告書になんと書こう、なんて馬鹿な事を考えていた」

 二人の言葉はどこか、懺悔しているような重みがあった。

「部下が後から報告を回してきて、奈落に落ちたような気分になって腰が抜けたて倒れた。そのあとすぐに担任のトラヴィス先生が貴方たちの無事と簡単な状況説明をして、今度は安心で腰が抜けちゃった」

 ああ、やはりこの両親は本当の本当に子供が大好きでしょうがないのだ、とエデンは安心した。しかし、続く言葉に少し耳を疑ってしまった。

「ママだけじゃなくパパも安心した。安心して心に余裕が生まれると、すぐに思った。学園の警備は、担任は子供をこんな危ない目に遭わせて何をやっていたんだという怒りが湧いて、怒鳴ったよ」
「そんな……先生は異常に気付いて駆けつけてくれたのよ?」
「分かってるさ。後でそこも含めて報告を知って、納得もした。あの先生は本当に生徒の為に行動していたと。だからこそトラヴィス先生は、電話で話をした際に全面的に自分の失態だったと言ったんだ。生徒から目を離して危機に晒したと。その言葉だけで、親は簡単に理性を飛ばしてしまう」
「自分たちは子供に何手助け出来なかったのに、現場で頑張った人に文句。最低だよね。後でそのことを知って、駄目だなって自分たちで思ったよ……幻滅した?」
「しないよ!!」

 思わず、ムキになって叫んだ。
 
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