「銀河英雄伝説 エル・ファシルの逃亡者(旧版)」の感想

tukiyomi
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コメント
更新お疲れ様です。

ひとまず順調な海賊討伐作戦。
何気に今回一番でかかったのは、カプランが徐々にですが使える指揮官になっていったことと、それに触発されて、チーム・フィリップスの若手組が戦果を挙げた事でしょうねえ。
現状、分艦隊司令部などが信頼を持てない(本来ならば分艦隊で執り行うべき業務も、現時点では艦隊司令部が直轄で行っていることなど)点からみて、彼らにどう経験を積ませるかが今後のポイントになるのかなと。

キルヒアイスは史実通りに退場ですか。
部下達の勢力争いによって幼馴染であり無二の盟友が死んだのでは、そりゃあラインハルトが激怒するでしょうねえ。
そしてその死を最大限に活用したオーベルシュタインは流石といっていいかと。

ただ、ラインハルトの経済改革って、貴族の資産没収を前提にしている訳ですけど、貴族が抱えていた負債等を保障(少なくとも反乱前までのもの)しないと、フェザーンの金融部門の大混乱引き起こして、貸し渋り・貸し剥がしを引き起こしかねませんので、原作で出ていた「貴族から没収した資産にはまだ余裕がある」というミッターマイヤーの言葉はどこまで真実かわからんのですよねえ。
まあ原作ではラインハルトの経済センスが高い逸話はありませんでしたので、あの狂ったような大軍拡は、大不況になりそうだったので、とにかく国内で資金回して軍艦等を作ることで雇用を増やし、兵に引っ張ることで失業率を減らし、フェザーンを占領し且つ新帝都にすることで、フェザーンの不満を和らげる目的があったんじゃあと思ったりもします。

そしてイゼルローンとハイネセンは遂に激突することに。
国防委員長がヤンを階級名で言っていない時点で、ヤンへの評価が最悪クラスにまで落ち込んでいるのが容易にわかります。
本来ならばこうした状況を防ぐために、せめてクブルスリーかビュコックのどちらかが、国防委員長との信頼関係を築いていればこうした事態が防げたはずなのですが、それができなかった(必要性を覚えていなかった)ことが、行き着くとこまで行きついてしまったのだなと。

アッテンボロー辺りは「それがどうした」なんていいそうですけど、ここまで色々やらかしておけばそりゃトリューニヒトじゃなくても、中央政府は黙っていませんよねえ。しかし・・・こうなると、エリヤが要塞戦の指揮取ることになるんですよねえ。
おまけにイゼルローン方面軍がどう動くかも未定。そりゃ泣きたいわ。

で・・・コメントが付いたので返信を。

不特定多数の支持獲得を目的にしない限りにおいては、排他的な集団を作って外部との緊張を高めていくって、政治的には極めてオーソドックスかつ有効な手段なんですよ。内部をまとめつつ、外部に対して要求を通す一挙両得の策です。内部がまとまらなければ意味ありませんし、外部が交渉のテーブルに着かなければ意味ありません。ヤンは両方できてるから、大した政治家です。政治というのは要求を通す技術であって、仲良くする技術や好かれる技術ではありません。勘違いされることが多いですが。

外部が交渉テーブルにつかないと意味がない所までは完全同意です。
そして政治とは要求を通すというよりも要求を実現させる能力と思っているので、これにも否定はしません。
だからこそヤンは一流の政治家ではないんです。
作者様も指摘したように、ヤンの手法は「不特定多数の支持獲得を目的にしない限りにおいて」有効であって、不特定多数の批判を受ける危険性が表裏一体となります。
ですので、こうした手法を取るにあたっては、「ここまでは大丈夫」という見極めが物凄く重要になってくるわけです。
そしてヤンはそれに見事に失敗しています。相手方が自分達を「交渉相手」としてではなく「排除すべき相手」と判断したからです。
レートを高く上げすぎてしまった結果、自らの権力基盤に最悪の結末を齎す危険性を招きよせた。政治家として失格です。

ですので、「強力だが忠実でない」と思われることそれ自体、政治的には有効なカードではありますが、瀬戸際外交と同様、中~長期的には碌なことにならないことが多いんですよ。政治は仲良くする技術ではありませんが、相手に一定の安心感を与えるのも政治家としては必須なんですよ。恐れられているだけでは粛清対象です。
だからこそ、上述した『クブルスリーかビュコックが国防委員長との信頼関係を築いている』位はしておかないといけなかったんです。

まあ・・・シトレ派も、最初は、交渉道具としてのイゼルローン方面軍の戦力をちらつかせる程度だったのが、クーデターの粛正余波で、もう縋るものがなくなって、露骨にカードとして使った可能性も高い訳ですが。
つくづく政治的センスのある提督がいなかったのが大きかったでした。 
作者からの返信
作者からの返信
 
部下を頼れない戦いの中、若手の成長は明るい材料ですね。もともとチームフィリップスには、実戦指揮官がいないのがネックでした。第三六戦隊の優秀な指揮官はアムリッツァで二人、クーデターで一人死亡しました。一人でも生きていたら、だいぶ楽になっていたかもしれません。

ラインハルトの経済センスについては、今後作中で触れることになろうかと思います。グリーンヒル大将は「貴族資産を没収しても、五年以内に金がなくなる。だから、帝国はその前に勝負に出る」と言っていましたが。

結局、旧シトレ派の超然主義がまずかったという結論になります。

排除対象に指定されたところで、排除が完了するまでは失敗したとはいえません。排除が失敗したら、そこに付け込んで要求を引き上げられますね。さてヤンはどうなるのでしょうか。

あなたが「ヤンは政治能力がない」とお考えになるのはご自由ですが、私は「ヤンに政治力がなければ、トリューニヒトはとっくにイゼルローン方面軍に手を突っ込んでたか、査問なんて方法を使わずに堂々と更迭してた」と考える立場です。あのトリューニヒトをここまで本気にされた時点で相当なものと思いますけどねえ。

まあ、これ以上の議論は平行線だとは思います。少なくとも、本作ではヤンの行動はロボスなどと同じ「一流の政治家」のそれとして扱いますので、ご了承ください。